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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)13867号 判決 1986年7月22日

原告 三愛貿易株式会社

右代表者代表取締役 青木武弘

右訴訟代理人弁護士 柳沼作己

被告 社団法人 日本健民厚生協会

右代表者理事 浦田勇太郎

右訴訟代理人弁護士 樋渡洋三

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

三、本件につき、当裁判所が昭和六〇年一一月二〇日にした強制執行停止決定を取り消す。

四、この判決は、前項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告の原告に対する東京地方裁判所昭和五九年(ヲ)第七四六号不動産引渡命令申立事件の執行力ある不動産引渡命令正本に基づく強制執行を許さない。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文第一、二項と同旨。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原、被告間には、東京地方裁判所昭和五九年(ヲ)第七四六号不動産引渡命令申立事件についての執行力ある不動産引渡命令正本(以下「本件債務名義」という。)が存在し、これには、原告は、被告に対し、別紙物件目録記載の建物(以下、「本件建物」という。)を引き渡せとの記載がある。

2.(一) 右不動産引渡命令は、被告が東京地方裁判所昭和五八年(ケ)第八〇一号不動産競売事件において、本件建物を買い受けたことに基づいて発令されたものであるところ、原告は、右競売申立てにかかる抵当権の設定登記の後で、右競売開始決定による差押えの登記のされた日の前である昭和五五年二月一日、訴外産友商事株式会社から、本件建物を賃借し、その引渡を受けて、これを占有しているものであって、右差押えの効力発生前から権原により本件建物を占有しているものである。

(二) 右不動産引渡命令は、昭和六〇年三月八日、東京地方裁判所において発令されたが、原告がこれにつき執行抗告をしたところ、東京高等裁判所は、同年六月一八日、右抗告を棄却する旨の決定をし、右不動産引渡命令は、同日、確定した。しかるに、被告は、同年七月三一日、訴外株式会社三景本社(以下「訴外会社」という。)との間で、本件建物につき、売買契約を締結し、同年八月一日、同訴外会社のために、右売買を原因とする所有権移転登記を経由した。したがって、右不動産引渡命令に基づく執行力は、右訴外会社のために承継され、被告は、その執行適格を喪失した。

3. よって、右債務名義の執行力の排除を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1の事実は認める。

2. 同2の(一)のうち、本件不動産引渡命令が原告主張の不動産競売事件において、被告が本件建物を買い受けたことに基づいて発令されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同(二)の事実のうち、本件不動産引渡命令が昭和六〇年六月一八日に確定したことは否認するが、その余の事実は認める。被告が原告主張の売買により右引渡命令の執行適格を喪失したことは争う。

理由

一、請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、原告主張の請求異議事由について判断する。

ところで、不動産引渡命令は、執行法上の権利として代金を納付した買受人に付与される債務名義であって、買受人の相手方に対する物権的ないし債権的請求権そのものを表示するのではないから、買受人が第三者との間で、買受不動産を売り渡す旨の売買契約を締結し、右第三者にその所有権を移転してその旨の登記を経由したとしても、買受人は、右引渡命令の申立権を失うものではなく、また、右引渡命令申立権が右譲受人である第三者に移転することもないと解されるから、引渡命令成立後の買受不動産所有権の特定承継人が、引渡命令の執行債権者の地位を承継することもないものと解するのが相当である。そして、買受人としては、右売買に基づく引渡義務の履行として第三者に買受不動産の占有を移転しなければならないのであるから、まず、自ら引渡命令の発令を得て買受不動産の占有を取得する必要もあるのである。

以上によれば、不動産引渡命令に対する請求異議事由は、引渡命令に表示された引渡命令申立権の不存在ないし消滅等の事由に限られるというべきであって、買受人の物権的請求権の不存在を示す事由等右に含まれない事由は請求異議事由には該当しないというべきである。

請求原因2の(一)の事実のうち、本件不動産引渡命令が東京地方裁判所昭和五八年(ケ)第八〇一号不動産競売事件において、被告が本件建物を買い受けたことに基づいて発令されたことは当事者間に争いがないが、その余の事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告が差押えの効力発生前から権原によって本件建物を占有している者であって、引渡命令の発令を妨げる場合に当たると認めることはできないというべきであるから、被告の原告に対する右不動産引渡命令申立権がないということはできない。

次に、請求原因2の(二)の事実は、本件不動産引渡命令が昭和六〇年六月一八日に確定したとする点を除き、当事者間に争いがない(なお、高等裁判所のした執行抗告を棄却する旨の決定に対し、特別抗告がされたとしても、右棄却決定の確定が遮断されるものではないと解されるから、右引渡命令は、原告主張の日に確定したということができる。)が、原告主張の被告から訴外会社に対する売却をもって、本件不動産引渡命令に対する請求異議事由とすることができないことは前示のとおりであって、被告の右引渡命令申立権が消滅したということはできないから、原告のこの点についての主張も失当である。

三、よって、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、強制執行停止決定の取り消し及びこれについての仮執行宣言につき、民事執行法三七条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤邦春)

<以下省略>

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